劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者 感想 その2

全国週末興行成績、第3位だったそうですね。
ランキング番組で少しでも「兄さん!」が聞けるかと思うとそわそわしてしまいます(…)。いや、必ずしもそこが使われるとは決まってないんだろうけど。ちなみにサイトによってはランキングで2位だったポケモンルカリオエドの画像が並んでいたりもします。何だか可愛い(笑)。


もう一度劇場に足を運ぶ前にシナリオブックを読んでおこうと思い、本屋さんに買いに行ったのですが、既に売り切れておりました。ついこないだまで平積みされていたのに…みんな考えることは同じか。


前回に引き続き、キャラごとに分けて思うこと。


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・* 以下ネタバレ *・
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エドワード・エルリック
「ロケット工学で錬金術世界に帰ろうとしている」とあったけど、作中では もはや興味を示していないようで、せっかくのロケットの打ち上げの場からそそくさと立ち去るほど。必死に勉強する姿もないため「何が何でも帰ってやる」という意志が感じられませんでした。実際に帰った手順も、エド自身はむしろ扉を開かないようにしていたこと、ホーエンハイムが門を開いてハイデリヒが無理やりロケットに乗せた…というものだったので、元の世界に帰るための努力をしないままに錬金術世界に帰ってきてしまっている。


空白の2年間の内に 諦めざるを得ない状況に追い込まれたのかもしれないけど、そんなエドの態度と観ている側(またはアルを始めとする錬金術世界側)との温度差が、エドへの感情移入を難しくしているように思いました。


確かに、アニメ版のエドは弟依存症というか もう弟のためなら形振り構わずラブすぎてほもくさい(すみません / でもそんなダメ兄貴なエドも好きだったさ!)とか思っていたのですが、いざ弟や自分の望みよりも「世界の平和」という最もらしいものを優先されると、悪い意味で大人になってしまったなー…と。


人体練成という禁忌、ホムンクルスを生み出した罪、それでも取り戻したいと思うものの為に逆境に負けず、自分の信念を貫いていたかつてのエドの反骨精神のようなものが無い。エッカルトとの戦闘で、彼を突き動かすものは 錬金術世界を攻撃した事に対する怒りか、それらをこちらの世界に招き入れてしまったのは自分(のために開かれた門)の所為だという自責の念か。…私は、彼が正義のヒーローである必要はないと思うんだけどなぁ。


でも頭の中や態度がどうとか考える前に、ひたすらカッコいいアクションシーンを見せてくれたのもまた エドでした。錬金術と体術を交えた戦闘は、やっぱり見応えがあります。あと、ノーアを助けたシーンの脊髄反射的な行動や、鎧のアルにおんぶされてドタバタするシーン(そしてこっそりその頭部を持って帰っちゃうダメ兄貴ぶり)は微笑ましかったです。


で、一番の衝撃影像。
ノーアの前で堂々とぱんついっちょで義肢をはめる兄さん。
とてもナチュラルだったので最初に見た時には何も感じなかったのですが、よく考えたら相手は気心の知れた整備士でも身内でもない昨日会ったばかりの女の子なんですよね…ちっとは恥じらえや 18歳男子。


最後の決断については、色々と思うところがあるので、これはアル(後半)とあわせてまた後日。


ロイ・マスタング
ええと。
このひと北で何を待っていたんでしょうか。
セントラルに駆けつけてエルリック兄弟を助けてくれていた事や、「生きていると思っていたよ」の台詞から 恐らくはエドの事なんでしょうけど…だったら尚更 北方にいた理由がわからない。


セントラル(の地下都市)とリオールに異変が起きてからエッカルトが攻め入ってくるまで どの程度の時間があったのか分りませんが、吹雪が吹きすさぶような北方からセントラルまでよく すぐに来られたもんだなぁというのが正直な所です。交通手段は蒸気機関車…だよねぇ。


ウィンリィと電話で話していた内容から、かつて街ごと練成陣にされてしまった街での異変→エドが消えた地下都市で何かが起こるという予感があったことがわかりますが、ヒューズとの約束を投げ出してまで降格し、過酷な状況に身を置いていた事への説明は無かったように思う。彼も、色んなひとに その帰りを待ち望まれていた存在のようなので、理由を描いてほしかったです。


そうそう。
ウィンリィと淀みなく会話していたのにはびっくりしました。ここは敢えて触れないほうがいいのかな…。そこに至るまでの経緯は描かれなかったけど、少しだけ安心した部分です。


エッカルトを倒したエドが別れを告げるシーン、ロイは咄嗟にアルフォンスを引き止めていたけど、その行動の真意がわかりませんでした。嫌がらせ?(真顔)エドが向こうの世界に帰るのを止めるのなら分かる。あれでも一応国家錬金術師なので資格返上しておけー!とか 推薦した私の立場がー!とか(…)色々理由がつけられるだろうから。でもアルがエドについていって、ロイさんは何か困ることがありますか。


まぁでも、そのおかげでCMだけで涙を誘う「兄さんっ!」のシーンが生まれたので、演出としては最高だったんだけど(笑)。無能じゃなかったよ、ロイ・マスタング


●アレックス・ルイ・アームストロング
この映画における「癒し系」。
本当に、彼が出てくるシーンでは劇場全体が ほのかな笑いと肩の力が抜けたような空気に包まれていました。あぁもう、このひと大好きだ。


将軍職にまで登りつめたお父さんが、よく長男の退役を許したなぁと思ったのですが、お姉さんはまだ現役でがんばっているのかもしれませんね。それでも、もう既に軍を退いていたのに、大事とあらば セントラルに駆けつけて「少佐」と呼ばれながら元同胞たちと一緒に闘っていたのはさすがです。


ただ、彼も移動に関する疑問が残ってます。
そう言えば リオールの鎧騒動の時にファルマンもいたので、かなり時間があったのかもしれません。


●ラース
アニメ設定の「門」で、ある意味 救われたひと。
改心したラースは自己を犠牲にしてアルの手助けをし、死後 めでたく母であるイズミと再会を果たしましたとさ…いや、全然めでたくない。


テレビ終盤であれだけスロウスをママだママだと恋しがってイズミを突っぱねていたのに、門で会うのはイズミさんかい。イズミの墓付近でウィンリィに発見されたことから、カーティス家の近くにいた(=2年のうちにスロウスから心変わりしていた可能性がある)としても、だったら何故、ロックベルさんちでオートメイルを貰って逃走してから2年間の内に行動しなかったんでしょう。修行中のアルがいたから、近づき難かったのかなぁ。


ラースVSグラトニーは、色んな意味で鳥肌が立ちました。
エドよりラースの方がトリッキーな動きをする分、その見せ方が凝っていて面白い。空中に放り投げられた時のぎょろりとした眼のアップや、グラトニーの腹の下を滑りぬける時のアングル、水中で賢者の石(もどき)にがっついていた描写などがお気に入りです。


そんな目まぐるしい展開のあとだったので、アルに向かって「自分を門に練成しろ」「そのために来た」と言い出すシーンをよく考えないまま流してしまいました…。門を開くために人体練成の過程を思い出しながら 足りないものを考えるアルよりラースの方が それに必要なもの(触媒となるホムンクルス)を心得ていたのは ちょっと不自然に思います。


ラースが、いつからその覚悟をしていたのかは謎。
後にエドが「アルに協力したいと思っただけ」と言いましたが、もしラースがエドの手足を無くしていなかった(錬金術が使えた)として、アルのために自分ひとりでグラトニーを道連れに門を開いていたとは思えない。もしかしたら「死にたかった」ラストを嘲ってトドメをさしたラースも 結局は同じような感情を持つに至ったのかも…と考えると切ないです。自分を、バケモノだと言ったことも痛々しかった。


●グラトニー
造られた存在(本当の意味でのホムンクルス)の中で、唯一 仲間意識をもって…というか同胞であるラストに懐いていたグラトニー。ダンテによって食欲だけの存在にされたとは言え、あれではあまりにも酷い。


そもそもエンヴィーはホーエンハイムと会えて本懐を遂げて(←と言うか噛み殺したと言うかエネルギー源として利用されてうっかり役に立っちゃったと言うか…微妙)、ラースは死後イズミに会えて、何でグラトニーだけあんな扱いなんですか。こんな扱いをされて初めて自分は結構グラトニーが好きだった事に気づきました(苦笑)。


以上。
あとは あの結末についてと、まとめ感想と、しょうもない萌えツッコミとか。
「世界と関わらずに生きていく事はできない」のに、錬金術世界を抜け出したというもの凄いパラドックスがあるので 上手く言葉にできるまでに時間がかかりそうです。この作品には「世界」が3つあってややこしいですね。


…それにしても、ウィンリィにかける言葉がないのはどうしたものか(…)。