淋しい狩人 / 宮部みゆき

淋しい狩人 (新潮文庫)

淋しい狩人 (新潮文庫)

今度は現代物。先日のビストロスマップで中居くんが映画「模倣犯」の話を持ち出してまして…ふと模倣犯(原作の方の、ですよ)を読んでいた時に犯人に感じた既視感の事を今さらながらに思い出しました。

どうしても思い出せなくて、手当たり次第に手持ちの宮部作品をぱらぱら捲り、ようやく思い当たったのが この短編集「淋しい狩人」に収録されている同名の短編の、ある妄想にとりつかれた若者だった。

実はこの本は、高校の頃に読んでいる筈なのですが、内容について 殆ど思い出せなかった。登場人物や各話のキィワード(本棚いっぱいの同じ本や、名刺の挟まれた文庫本など)は覚えているのに、それが どのように物語に関わってくるかを全然覚えていなくて、そんな自分にびっくりしました。

という訳で、再読ですがゼロから楽しんだの同じようなものでした。この短編集の中にある「うそつき喇叭」という小説は、吐き気がするほどタイムリーでした。あまり話題にしたくないけど、こういうネガな話題も きちんと それ相応の結末をつけて、ひとつの大きな流れの中に組み込んでいくところが良い。

作中に登場する古本屋に関する描写で「ここに古本を買いに来るお客さんたちは、愉しみと夢を求めているのだ。*1」という一文がありますが、この書店の描写は、そのまま宮部作品、ひいては小説や映画に対する私の思いと重なります。社会的な問題を扱っていても、非現実的なファンタジーでも、根底にある愉しみたいという気持ちに違いはないと思うんです。ほんの少しの現実味やシビアさを、作品全体とのバランスを考えてビシリと決める、こういう巧さに憧れます。

*1:「六月は名ばかりの月」より